日本福祉心理学会
理事長 網野 武博
日本福祉心理学会理事長を拝命致しました網野武博でございます。
振り返りますと、学会設立準備委員会が発足したのが2002年、そして第1回大会が開催されたのがその翌年でした。時代は巡り、2014年の大会をもって第12回を迎えます。12という数字は、十二支にみるように循環の一つの区切りとして大きな意味を持っています。この間の様々な活動を経て、今、本学会は次なる課題や役割を確認しそれを実行に移す段階に来ております。第一に、本学会設立の趣旨の再確認と今そしてこれからの日本の福祉を担う課題と役割であります。もう一つは、数ある心理学諸学会共通の資格認定に関する課題と役割にかかわるものであります。
第一の課題と役割にふれますと、本学会の目的は、「わが国における福祉心理に関する科学的研究の進歩発展を図る」ことであります。福祉心理学は、福祉の臨床や制度と深く関わる応用心理学のひとつであり、また人間の尊厳や人間科学と深く関わる基礎心理学のひとつでもあります。しかしながら、福祉心理学という名称がようやく普及しはじめたのは近年のことであり、福祉に対する心理学的な関心や視点はまだ必ずしも高く広いものではありません。本学会の会員は、なかなか400名をはるかに超える段階に達しておりません。今後学会活動の幅を広げ足腰を本格的に強化する必要があります。すでに学会主催のシンポジウムや実践演習なども広げつつありますが、研究、研修活動や広報活動をさらに強化していきたいものです。さらに、次の点についても十分検討を加えていく必要があるのではないでしょうか。まず、ひろく福祉界における心理学関係者の活動分野をみていきますと、従来から障がい関係、児童関係、保育・教育関係、相談支援関係と比較して、高齢者・介護関係はきわめてそれが少ない経緯をたどってきました。少子高齢社会の課題が山積する中で、本学会の活動にも欠かせなくなっている分野が高齢者・介護関係です。
次に、福祉実践や制度の施行の特徴にふれますと、従来からwelfareと比較して、well-beingの視点が非常に少ない経緯をたどってきました。本学会の英語訳はJapanese Association of Psychology for Human Servicesです。福祉の英語訳として最も頻繁に用いられるwelfareではなく、広くすべての人々の福祉にかかわるサービスを重視したヒューマンサービスという用語をとり入れています。そこには、保護を必要とする人々の福祉を重視したwelfareとともに、すべての人々の自己実現を図るための福祉を重視したwell-beingが含まれています。
さて、第12回大会のテーマは、「少子・高齢社会の福祉を拓く」です。本学会が創設された6年後の2008年に開かれた第6回大会のテーマが「ウェルビーイングと福祉心理学」でありました。今大会は丁度その6年後にあたります。少子・高齢社会が著しくすすむわが国の福祉の動向は、高齢化、少子化の流れをかなりwelfareの視点からとらえすぎている傾向がみられます。心理学の分野においてもそこに重点を置き、welfareに貢献するという視座が中心となっているように思います。私たちの社会は今必然的に少子、高齢化を歩んでいます。今大会を、このようにwell-beingとしての福祉を考え、人間を尊ぶ社会の構築に貢献する心理学のあり方を探る機会にしたいと思います。
第二の課題と役割にふれますと、心理士の国家資格化を実現するという長年の懸案がいよいよ具体的になったことであります。本学会では、その創設時から学会独自の福祉心理士資格認定制度について検討を加えてまいりましたが、2009年にその制度が具体的に動き出しました。資格認定制度は、福祉心理に関わる分野の専門職の養成と質の維持向上とともに、社会的地位の確立のためにも重要であります。大学・大学院で指定科目を履修し必要な単位を修得し卒業または修了した方々、そして福祉心理学分野の教育・研究に携わる方々が広くこの資格を取得されることを望んでおりますが、本学会が非常に重視していますことは、我が国の福祉の屋台骨を支える多くの福祉実務経験を重ねておられる方々や福祉臨床に携わる方々が福祉心理士になることであります。
一方で、きわめて長い年数に渡って検討されてきた心理士の国家資格化がいよいよ実現する時期を迎えました。早ければ、2013年中には公認心理師法案が国会で可決され公布される見通しとなっております。福祉心理に携わる方々の国家資格の取得が広がるだけではなく、サイコロジストと深く連携するソーシャルワーカーやケアワーカーの方々が福祉心理士として活躍していただける環境をさらに広げていくことも大切なことと考えております。
2014年6月