強度行動障害との出会いから

2016年6月30日

村本浄司(東京福祉大学 社会福祉学部)

専門の実践や研究についての紹介

私は大学院に進学する際に、漠然と自閉症や知的障害に関する研究をしたいと考えていました。しかし当初は、これといってやりたい研究もなかったため、修士論文のテーマもなかなか決められずにいました。そこで、現在も大学教員をやっておられるとある先輩に相談したところ、幼少期の自閉症児が示す配列行動(ミニカーなどを並べる行動)について研究してみたら面白いのではないかと提案されました。当時の私は特にやりたい研究もなく、先輩の提案を断る理由もありませんでしたので、その研究を進めることにしました。しかし、その後、紆余曲折があり、いつの間にか自閉症者が示している常同行動について研究する方向になっていました。そこで常同行動に関する研究のための対象者を探していたところ、現在もお世話になっている知的障害者更正施設A園を、指導教員である園山繁樹先生にご紹介いただきました。

実際にA園に訪問させていただくと、利用者が置かれている状況が想像以上に過酷である実態を目の当たりにしました。A園は当時、利用者数が500名以上入所利用している県立の中核施設でした。そのため、家庭では養育困難な最重度の利用者を積極的に受け入れていました。利用者の中でも特に、激しい自傷や他害、物壊し、こだわり、睡眠障害などの強度行動障害と呼ばれる人たちは、職員にとってもたいへん支援が困難であり、そのことが職員を疲弊させ、その結果、不適切な支援方法につながっている現実がありました。私の研究の中心は、いつのまにか、常同行動から、そのような強度行動障害を示す知的発達障害者への支援に関する実践や研究に拡大していました。

強度行動障害という名称は、医学上の診断名ではなく、激しい行動上の問題があることにより家庭内などでの養育や支援が、著しく困難となる人々を指す行政上の用語です。具体的な行動としては、激しい自傷や他害、物壊し、こだわり、排泄上の問題、睡眠障害などが挙げられます。そのような人々を支援する上で重要な前提として、行動障害が本人の責任で生じるものではないと頭に入れておくことです。すなわち行動障害は、自閉症などの特性を配慮しないで支援や養育、教育を行うことや、周囲の環境が自閉症者にとって適切ではない場合に生じやすいということです。そのため、そのような行動障害のある人をアセスメントする際には、その本人に対するアセスメントのみならず、実際に生活している環境や、職員の支援方法を含めた施設環境などを調べることも重要視します。具体的な方法としては、機能的アセスメントと呼ばれる方法により、本人の行動問題の機能(役割)やその行動に影響を与えている環境などを調べ、生態学的アセスメントにより、その人の生活環境を調べることにより、その人の行動障害がどのようなメカニズムにより生じているのか、また、どのような支援方法を行なえば、行動障害が改善し、その人の生活の質が向上するのかを明らかにします。そのアセスメント結果に基づいて、行動障害を改善するための計画(行動支援計画)を職員と協働しながら立案します。実際には、支援を行う過程で何度も評価、修正を行うことによって、最善の計画にしていきます。

近年、国による強度行動障害支援者養成研修が開始され、知的障害者施設で働く職員に行動障害に対する支援方法は徐々に広がりを見せています。しかしながら、強度行動障害のある人に対して専門的な支援を実施できる現場職員は限定されるでしょう。本来、このような人たちに対する支援は、高度の専門知識とスキルが求められ、一時的な研修のみで身につけることは難しいと思われます。そこで、私はこのA園で働いている際に、行動障害のある利用者を支援でき、なおかつ知識やスキルを兼ね備えた専門職員(行動支援専門員)を4年間で育成しようと考えました。1年目から3年目は支援に必要な基礎知識や実践を学び、4年目からその1期生がスーパーバイザーとして、次の新たな専門職員である2期生を育成する流れとしました。現在では、そのA園の中で1期生2期生ともに行動障害のある人への支援で活躍しており、その次の3期生も研修を受けています。しかし、このような研修方法は、中核施設だからこそできる試みであり、通常の入所施設では様々な理由で困難かもしれません。そのため今後は、県全域でそのような専門職員を育成する試みが重要であると考えています。

福祉心理学について

福祉の現場において利用者に対して支援を実践する際は、心理的な方法とソーシャルワークの双方の考えが重要であると考えています。しかし双方は全く別物ということではなく、利用者支援を実践する上では、どちらか1つの方法のみを実践するというものでもありません。すなわち、福祉現場における利用者支援においては、両方をうまく活用できることが重要ではないかと思っています。例えば、私の専門である行動障害のある人への支援を実践する際は、心理的な方法の1つである行動論的アプローチを中心に実践します。しかし、それだけで終わるのではなく、その人への支援に必要な社会資源を調べたり、計画相談員や他事業所の職員などの他職種の人と連携したり、地域の人の協力を求めたりするなどのソーシャルワーク実践も、その人の自立や生活の質の向上を目指す上では重要なことです。すなわち、心理的アプローチとソーシャルワークの両方の実践により、利用者の自立や生活の質の向上を目指すのが福祉心理学であり、その実践を担うのが福祉心理士ではないかと捉えています。

村本浄司先生のプロフィール:
知的障害・発達障害児者に対する行動論的アプローチおよび行動論的ソーシャルワーク

これまで主に施設に入所する知的障害および自閉スペクトラム症の利用者に対して、応用行動分析に基づくアプローチを実践、研究してきました。その中でも特に、強度行動障害を示す方への支援を中心に、研究や実践に力を注いで参りました。大学では主にソーシャルワークや障害者福祉を教えています。

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