社会的養護の現場における福祉心理学の課題と展開

2015年12月30日

大迫 秀樹(九州女子大学 人間科学部)

研究内容

これまでに、複数の社会的養護の現場(児童福祉施設・機関)において、実践活動を経験してきました。そこで、まず、実践に基づく研究の必要性・重要性という視点に立った考え方について述べ、次に、現在進めている研究の紹介と今後の方向性について述べていくこととします。

社会的養護の現場における実践活動と研究の流れ

県職員の児童福祉職(常勤)として複数の職場を経験しました。まず最初に、児童自立支援施設における生活担当職員(児童自立支援専門員)として勤務しました。そこでは、入所児には、被虐待の背景があることが少なくはなく、感情調節ができずパニックになる、自尊心の低さからくる言動が頻繁に認められる、食へのこだわりがある等々の特徴が認められ、生活場面において、福祉臨床心理学的な観点から理解し、対応することが重要だと感じました。また、同時に、生活場面でトラウマとなっているような出来事を語り出すこともあり、個別の心理面接による対応の必要性も感じたところです。その後、児童相談所の児童心理司(当時は、心理判定員)として勤務しました。ここでは、年齢的には、乳幼児から高校生までの年齢、また、相談種別として、障害から反社会的・非社会的問題行動に至るまで、非常に幅広く対応することから、高い力量が求められること、あるいは、総合的な視点を持って対応する事の重要性などを学びました。さらに、情緒障害児短期治療施設の心理療法担当職員として勤務したのですが、入所児には、やはり被虐待の背景があることが多く、心理的ケアを必要とするケースがほとんどであり、週1回の個別心理面接のよるケアの他、生活担当職員へのコンサルテーション、児童精神科医師との連携、家族に対する心理的ケア・調整などが求められ、全体を統合する役割を果たすことなどが重要だと感じました。

その後、大学教員となってからは、現在に至るまで、児童家庭支援センターの心理士として勤務しています(週1回の非常勤職員)。設置主体の社会福祉法人は、同一敷地内で児童養護施設・乳児院を運営しているため、予防、アフターケア的な意義から、入所児にも関わっています。児童家庭支援センターでは、児童相談所では対応が困難な不登校児の居場所づくりによる対処などをしている他、教育機関や児童相談所との関係強化にも力も入れています。児童養護施設や乳児院に関しては、被虐待の背景がある入所児が少なくはなく、心理的なケアの視点が欠かせないため、個別面接を実施する他、処遇会議への出席等も含めて生活担当職員へのコンサルテーション、そして各施設の心理士に対する助言活動などが重要な役割となっています。

このように複数の種類の社会的養護の現場での実践活動を行ってきましたが、現場での生活臨床に基づく知見を学問的に検証しながら積み重ねていく研究活動を行うことが非常に重要だと思っています。

現在の研究の内容と今後の方向性

現在、実践活動に基づく研究と合わせて、調査研究も行っています。テーマとしては、「乳児院・児童養護施設での乳幼児に対する早期からの連続性を持った心理的ケア」(科研費:課題番号26380820、研究代表者:大迫秀樹)というものです。乳児院や児童養護施設等の児童福祉施設へ入所した子どもたちに対する心理的ケア(里親や保護者への支援も含む)が求められていますが、これらの施設では、乳幼児を含む年齢を対象としているため、特に、早期からの連続的な視点に立った上での有効な心理的ケア(乳幼児に対する養育における心理面での繋ぎ)のあり方を確立していくことが重要かつ急務な課題だと考えています。このことは、これまで児童福祉の現場での実践活動に携わっていく中で、経験的に、強く感じたことに基づいています。その視点に立ち、現在、全国の乳児院、児童養護施設を対象に、乳幼児への心理的ケアの状況について調査分析を進めているところであり、その上で、今後、その知見に基づく方策を提示するとともに、可能な限り、実際に施設で試行的に実施・評価することで、具体性を持ち、かつ効果的な心理ケアの方法やシステムの構築等を提言していこうと思っているところです。

以上、これまでの実践活動と現在の研究内容、方向性等について述べさせていただきました。

福祉心理学(福祉心理士)についての考え

これまで、多くの種別の社会的養護の場における実践活動を積み重ねていく中で感じたことは、現場での生活支援において心理学的な知見を取り入れた活動を行っていくこと、そしてまた、そのことを実践研究として積み重ねていくことの必要性と重要性です。先にも述べましたが、私は、最初の職場である児童自立支援施設では、生活担当職員(児童自立支援専門員)として勤務していましたので、臨床心理学がもともとベースとする外来相談型の個別面接による関わりではありませんでした。しかしながら、逆に生活場面に関わるなかでこそ見えてくる、心理学的な視点から見て非常に重要な特徴がありました(例えば、感情調節の問題、自尊心の低さの問題など)。この対応は、当然のことながら、個別の心理面接というよりも、生活場面でその都度、心理的なケアを行っていくことが必要ですので、生活担当職員である保育士と連携・協働しながらの支援となるわけです。そして、その上で、個別の心理的面接などによるケアも行っていく必要があると考えられます。

このように福祉領域(特に、児童虐待問題への対応等)における心理的なケアについては、生活臨床を重視することが特に重要だと考えています。それ故に、この領域で仕事する心理士である福祉心理士は、生活担当職員との連携・協働をしつつ、さらには、全体を統合するような視点を持ちながら関わっていくことが必要であり、そのようなことについての有効な知見を提示していくことが福祉心理学に課せられた大きな役割の一つだと考えているところです。

大迫秀樹先生のプロフィール:
専門:児童福祉領域(特に、被虐待児への対応)における心理的ケア。

これまで、児童福祉の現場で実践活動をしてきましたが、現在は、大学で、臨床心理学、障害児心理学、健康心理学等の心理学系の科目と児童福祉、養護原理、養護内容、施設実習など福祉系の科目を教えています。あわせて、非常勤にて、児童福祉の現場での心理士としての活動(原則週1回)も行っています。

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