大西 良(長崎国際大学 人間社会学部 社会福祉学科)
onishi-ryo@niu.ac.jp
研究・実践についての紹介
私は福祉系大学で教鞭を執る傍ら、公立小・中学校のスクールカウンセラー(非常勤職)として相談援助業務に13年ほど従事してきました。
ここでは自己紹介も兼ねて、今私が取り組んでいる研究と実践についてご紹介したいと思います。
まず研究についてですが、私はこれまで「子ども支援」を中核に据えて、研究活動を行ってきました。現在までの日本福祉心理学会における主な研究発表には、「中学生へのアンガーマネジメントプログラムの実施と効果検証~POMS短縮版を用いた気分変化の測定を中心に~」(第8回大会)、「Social Skills Trainingを活用した薬物乱用防止教室の実施~A中学校での取り組みを中心に~」(第9回大会)、「システム・マップを用いた多職種連携の機能分析~学校現場における不登校支援事例の検討から~」(第10回大会)、「要保護児童対策地域協議会の現状と課題~A県B市での活動事例を中心に~」(第13回大会)などがあります。また主な著書としては「精神保健福祉士のためのスクールソーシャルワーク入門~子どもと出会い、寄り添い、共に歩むプロセスを見つめて~」(へるす出版、2012年)があります。そして最近では、子どもの貧困問題に焦点を当てて、貧困の世代間連鎖(再生産)による不利の実態や貧困を背景とする子どもたちの生活課題に対するソーシャルワーク的アプローチについての調査研究を行っています。直近の研究テーマは、「貧困に生きる子どもたちのメンタルヘルス課題への支援に関する実践的研究」です。経済的困窮に起因する生活上のストレスが、子どもたちの成長や発達、あるいは精神的な発育にどのような影響を及ぼし得るのかを実証的に明らかにし、子どものメンタルヘルス課題への具体的支援として、カウンセリング(心理学)とソーシャルワーク(社会福祉学)の融合と協働支援のあり方について、その実践理論を生成するとともに、子ども支援に関する福祉心理学的な理論を構築することを大きな研究目標としています。今後も心理学と社会福祉学の融合による子ども支援について精力的に研究活動を続けていきたいと思います。
さてもう一方の私の実践についてですが、冒頭にも述べましたように私は公立の小・中学校でスクールカウンセラーをしております。これまでに日々のカウンセリングの中で多くの子どもたちと出会い、共に歩んできました。子どもたちが抱える様々な葛藤や苦しさ、辛さ、憤りなどといった子どもの内面から噴き出す感情に真正面から向き合ってきました。子どもたちの悩みの中には、貧困や虐待(ネグレクト)などの生活課題が大きく影響しているケースも多くみられます。先述した研究活動にも通じますが、子どもとのかかわりの中で貧困に生きる子どもの生活実態を目の当たりにし、彼ら彼女らに支援者として何ができるのかを日々考えさせられます。今後も子どもたちと寄り添い、共に歩むかけがいのない時間を大切にしながら、支援者としての役割を果たしていきたいと思います。またその一方で、このような厳しい生活を余儀なくされる子どもたちが、夢や希望に向かって力強く成長していく逞しさにも直にふれることも多くあります。この子どもの持つ無限の可能性に、支援者である私も支えられる体験を多くしてきました。このような子どもたちとの関わりをエネルギーにしながら一人の支援者として、また一人の研究者として多くの学びを得ながら、さらに精進していきたいと思います。これからも子どもたちからとの関わりを大切にしながら、日々の研究活動ならびに臨床活動に真摯な態度で取り組んでいきたいと思います。
最後に、今回、私の拙い研究・実践の経験ではありますが、ご紹介させていただく機会をいただいたことに心より感謝いたします。
祉心理学・福祉心理士について
福祉心理学は社会福祉学と心理学を結ぶ、まさに現代社会において重要な役割を担う学問領域であると思います。
また福祉心理士の資格取得に必要な科目※を見てもわかるように、「心理学」や「社会福祉学」のような基礎科目に加え、心理学関係科目として「臨床心理学」や「心理査定法」、「カウンセリング(心理相談)」、「障害者の心理」などの修得、また社会福祉学関係科目として「相談援助」や「社会福祉援助技術」、「精神保健学」、「精神保健福祉援助技術」などの修得が必須要件となっています。
福祉心理士は、まさしく「福祉」と「心理」の橋渡しを担う人材であると言えます。少子高齢化が進み、家族や地域の機能が減退する現代社会において、福祉心理学(福祉心理士)は、国民の社会的課題に真っ先に取り組むことができる学問であり、また専門資格であると思います。
※福祉心理士資格の取得に必要な科目については、「福祉心理士資格申請の手引き」をご参照ください。
大西 良先生のプロフィール:
専門:精神保健福祉、メンタルヘルス、ソーシャルワーク
1978(昭和53)年、福岡県直方市生まれ。現在、長崎国際大学人間社会学部社会福祉学科講師を勤める。2002(平成14)年より公立小・中学校においてスクールカウンセラーとして勤務し、不登校・引きこもり、非行、虐待、発達障害などの様々な対象の相談支援に従事している。また近年では、大学生と共に福祉的な課題を抱える子どもの居場所づくりや学習支援などを行っている。